こんにちは。ゆりです。
これまで、養育費の支払いについて色々とお伝えしてきました。
養育費に関する前回の記事はこちらです。
養育費はいつまで支払うの?元妻が再婚したら支払義務はない!?
では、もし決定した養育費を支払わなかった場合、具体的にどうなるのでしょうか。
罰則はあるのでしょうか?
知らない人も多いと思いますので、これを機会に学んでおきましょう。
この記事を読むと、あなたは次のことが分かります。
- 養育費を支払わないとどうなるのか?
- 養育費を支払わないことで罰則はあるのか?
- 養育費が法律で手厚く守られているのはなぜか?
養育費を支払わないとどうなるのか?
養育費を支払わずに滞納した場合、どのような事態になる可能性があるのかを見ていきましょう。
給与を差し押さえられる
養育費を支払わない場合に考えられる最悪の事態は、裁判所の強制執行によるあなたの財産の差し押さえです。
差し押さえの対象となるのは給与や預貯金はもちろんですが、他にも退職金や役員報酬、所有している不動産や貴金属、生命保険などがあります。
「生命保険をかけているけど、独身の頃から加入していたので対象外では?」と思う方もいるかもしれませんが、養育費未払いの場合は独身時代から持っていた財産も対象になる可能性があります。
ただ、養育費の強制執行は給与か預貯金の差し押さえがほとんどです。
なぜなら養育費の強制執行には特別な保護があり、借金返済などの一般的な強制執行よりも手厚く守られている部分があるからです。
給与差し押さえの場合、一般的な強制執行では手取り額(税金等を差し引いた残りの金額)の4分の1までですが、養育費では2分の1まで差し押さえることができると法律で決まっています。
手取り額が66万円を超える場合は2分の1ではなく、33万円を差し引いた残金のすべてが差し押さえ対象になります。
また、滞納している養育費だけでなく将来の養育費についても強制執行の対象となります。
ですから一回給与を差し押さえられてしまうと、相手が差し押さえを取り下げない限り続くことになります。
それは、養育費の全額を一括で支払わない限り子どもが成人するまでずっと続きます。
これに対し預貯金の差し押さえの場合は基本的に一度で終わりです。
預貯金残高によっては空振りになるリスクがあるので、強制執行する側としては給与差し押さえの方が確実に養育費を回収できます。
養育費の差し押さえは、必ずしも差し押さえ対象の全額を持っていかれるわけではありません。
滞納金額に達するまでは対象の全額を差し押さえられますが、それがなくなれば1ヶ月分の養育費だけになります。
また、養育費の滞納がなければ将来の養育費だけを差し押さえられることはありません。
会社に知られる
給与を差し押さえられた場合、養育費は毎月給与から天引きされます。
つまり、「養育費を支払っていないことを会社に知られる」ことになります。
それによって会社から解雇されることはありませんが、居心地は悪くなるでしょう。
会社には裁判所から差し押さえ命令書が届きます。
あなたが会社に対して「養育費は元妻に直接支払うから、給与から天引きしないでほしい」と頼んでも、会社としては応じることができません。
給与の支払い方法が銀行振込でも現金手渡しでも同じです。
会社は裁判所からの命令には従うしかないのです。
ですから給与が差し押さえられてしまった場合に、あなたが個人的に養育費を支払うことは避けた方が無難です。
なぜなら、あなたが改心して自発的に養育費を支払ったとしても差し押さえは解除されませんし、会社としては差し押さえ命令が出ている以上、あなたに給与の全額を支払うことはできないからです。
給与が差し押さえられてしまった場合は天引きに任せるのが得策です。
罰則はあるのか?
養育費を支払わないことに対する罰則はありません。
しかし以前にもお伝えしましたが、たとえ自己破産しようとも養育費の支払い義務が消滅することはありません。
養育費の支払い義務については、こちらに詳しく書いています。
ただし、養育費を滞納していると裁判所から「履行命令」が下る場合があります。
履行命令とは一定の期間内に支払するように裁判所が命令する制度で、これを無視すると行政罰として10万円以下の罰則金が科せられる可能性があります。
(この罰則金は条例違反(例えばタバコのポイ捨て禁止条例など)に科せられるものと同じで「過料」と呼ばれ、前科はつきません)
履行命令に支払いを強制する力はありませんが、裁判所からの支払い命令と聞くとある程度のプレッシャーはかかりますね。
これは個人的な意見ですが、この過料は国庫に入るお金で子どもに支払われるわけではないので、せっかくお金を支払うなら子どもに渡るように養育費として支払ってほしいと思います。
また、「遅延損害金」を請求される可能性もなくはありません。
養育費の遅延損害金とは、未払いの養育費に対して年〇%という形で上乗せできるお金です。
もし遅延損害金について離婚協議時に取り決めしていればその通り(利息制限法の範囲内である年15%~20%)に、また取り決めしていなくても法定利率である年5%(2020年4月1日より年3%)で請求できます。
長期間にわたって養育費を支払っていない場合は「請求される可能性がある」と覚えておく必要があります。
強制執行は突然執行されるのか?
養育費を滞納していると、ある日突然あなたの給与が差し押さえられてしまうのでしょうか?
答えは、「その可能性はあります」です。
強制執行までの一般的な手順としては次の通りです。
- 相手から直接電話やメールなどで支払い期限付きで養育費を請求される。
- 内容証明郵便が送られてくる。
- 裁判所からの「履行勧告」「履行命令」を受ける。
- 強制執行。
しかし、これらの手順は必ず踏まなければならないものではありません。
必要な書類がそろっていることが条件ではありますが、いきなり給与差し押さえの申し立てをすることも可能です。
強制執行に必要な書類で一番のポイントになるのは「債務名義」と呼ばれる書類です。
債務名義とはお金の貸し借りがあったことを公的機関が証明した書類のことで、養育費の債務名義は以下の5つです。
- 調停証書:調停成立時に養育費について取り決めた場合。
- 審判書:調停から審判になった場合で、養育費の取り決めをしたとき。
- 公正証書:協議離婚で養育費の金額を決定し公正証書を作成した場合。
- 判決正本:離婚訴訟で養育費の金額を決めた場合。
- 和解調書:離婚訴訟したが途中で和解し、養育費について取り決めた場合。
これらの債務名義がない場合(離婚時に口頭のみで養育費に合意した場合など)は強制執行はできません。
ただし、代わりに「養育費請求調停」を起こされる可能性があります。
養育費請求調停の場合はいきなり給与を差し押さえられることはありません。
しかし調停を起こされれば拒否はできず、調停で合意しなかったとしてもその次の段階である家庭裁判所の審判に自動的に移行し、養育費が決まります。
審判では父母の合意がなくても裁判所が養育費を決定する権利を持っているため、裁判官が一方的に決めることができます。
すると「調停証書」や「審判書」が作成されるので、養育費を滞納すれば強制執行できることになります。
ちなみに審判で決定した金額に納得できない場合は、審判結果を受け取ってから2週間以内であれば不服申し立て(「即時抗告」と言います)をすることも可能です。
そこで「即時抗告する理由がある」と判断されれば高等裁判所で再審理を行うことになり、新たに主張したり立証したりできます。(理由がないと判断されると審判書の内容で決定します)
高等裁判所では、不服を申し立てた人に不利な判断がされる可能性があります。
どういうことかというと、例えば「毎月4万円の養育費を支払う」という家庭裁判所による審判の決定にあなたが「高すぎる」と納得できず即時抗告したとしましょう。
この件について高等裁判所は「毎月10万円の養育費を支払うこと」という、あなたに不利な判決を下す場合があるということです。
このように申し立てた人に不利な判断は家庭裁判所では行われません。
即時抗告するかどうかの判断は慎重に行う必要があるでしょう。
ここまで養育費の滞納についてご説明してきましたが、支払う側には大きなリスクがあることがおわかりいただけたと思います。
ではなぜ養育費はこのように手厚く守られているのでしょうか?
養育費の支払い率は非常に低い
厚生労働省による「平成28年度全国ひとり親世帯等調査」によると、母子世帯で養育費の取り決めをしているのは全体の42.9%と半数にも及びません。
その42.9%の中でもすべての世帯が養育費を受け取っているわけではありません。
下のグラフは養育費の取り決めをした母子世帯の養育費受給状況です。
取り決めをしたにもかかわらず一度も養育費を受け取ったことのない世帯が半数以上もあります。
データ参考:厚生労働省 平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果(PDF)
上記のグラフには養育費の取り決めをしていない世帯は含まれていません。
取り決めをしていないと養育費を受け取っていない場合が多いでしょうから、養育費の支払い率はかなり低いことが想像できます。
養育費の未払いは家庭裁判所がスタートした昭和24年から同じような統計があり、実は現在もあまり変わっていません。
これが母子家庭の貧困という問題につながっていることもあり、国や自治体は少しずつではありますが法律を改正したり条例を制定するなどして問題解消に向けて動いています。
社会全体としてひとり親世帯を守る流れになっているということですね。
先ほどもお伝えしましたが、養育費回収のための具体的な特別ルールは下記の2点です。
- 給与の差し押さえで手取り額の2分の1まで差し押さえ可能
- 養育費を滞納している場合は将来の養育費に対する強制執行も可能
これに加え2020年4月からは財産開示手続きが改正され「第三者からの情報取得手続き」という新しい制度がスタートしました。
この制度は簡単に言うと、裁判所が相手の氏名をもとに金融機関や市町村、年金事務所などに一斉に照会できる仕組みです。
金融機関に照会することで相手の銀行口座の所在を把握でき、市町村や年金事務所に照会すると相手の勤務先を知ることができます。
よく「養育費の強制執行を回避する方法」として
- 転職する
- 銀行口座を変える
という方法が紹介されていますが、どれも正しくありません。
確かに転職すれば差し押さえは失効します。
一度差し押さえられた銀行口座はどうすることもできませんが、別の口座を開設すれば差し押さえは回避できます。
しかし、新しい制度導入によって転職先や銀行口座を突き止めることが容易になるので、再び強制執行されれば同じことです。
一時的に逃げることは可能かもしれませんが、養育費支払いの責任から逃れることはできません。
養育費の受給は子どもの正当な権利
今回のまとめは次の通りです。
- 養育費を支払わないと給与などの財産を差し押さえられる可能性がある。一度給与を差し押さえられると解除方法はほぼないに等しい。
- 養育費を支払わないことによる罰則はない。
- 養育費の支払い率が非常に低い状況がずっと続いているため、社会的に養育費を守る流れになっている。
私自身「養育費を支払わない人が多い」というのは、テレビや新聞などで見聞きして認識がありました。
今回、国の統計などを調べあらためて散々たる現状を知って、ギュッと胸を締め付けられる思いがしました。
養育費のお話をするたびにお伝えしていますが、養育費の受給は子どもの正当な権利です。
養育費の未払いは、強烈な言い方をすれば「我が子に対するDV」です。
子どもを育てる義務を放棄しているのですから。
まだ離婚していないあなたにしてみれば、養育費を支払わない父親のことを逆に理解できないかもしれませんね。
「自分は子どもを愛している」
「自分だったら、もし離婚したとしても養育費は支払い続ける」
私はあなたがそう思っていると信じています。
ただ世の中の離婚した父親も、はじめはきっとそうだったと思うのです。
あなたは自信がありますか?
子どもの年齢にもよりますが、養育費は長期に渡って支払い続けるものです。
離婚すれば子どもと離れて暮らすことになり、顔を見る機会は激減します。
場合によっては何年も会えなくなるかもしれません。
なのに毎月毎月お金を振り込みます。
何年も何年も。
子どもを愛しているとはいえ、むなしい気持ちになることもあるのではないでしょうか。
シングルマザーという立場の私でさえ、それくらいのことは想像がつきます。
だから、離婚なんてしない方がいいんです。
子どもと離れたくないなら、そばにいられる方法を考えるのです。
子どももそれを望んでいます。
あなたのパートナーも本当は離婚など望んでいないはずです。
はじめから離婚するつもりで結婚する夫婦なんていないのですから。
世間から見たら立派な大人であっても「常に何もかも完ぺきな人間」ではありませんよね。
事の大小はあれど間違いを犯すこともあるのは、誰もが分かっています。
大切なのはそれが「間違い」だと気づいて、悔い改める気持ちです。
その気持ちがあれば、あなたはきっと変われるはずです。
人の細胞が毎日入れ替わっていることはご存知の方も多いでしょう。
体の部位や年齢によってスピードは変わってきますが、多くの細胞は1年あればほとんど入れ替わってしまうそうです。
だとしたら、1年後のあなたは今とは違う「新しい細胞のあなた=別人のあなた」と言うこともできると思いませんか?
あなたが変われば、彼女も変わります。
だって、細胞が入れ替わるのは彼女も同じですから。
どうか諦めないでください。
あなたが家族を失わないために。
傷ついた彼女の心に向き合って、逃げずに受け止めてほしいと切に願います。
さて、養育費を支払わないと大変な事態になることはお分かりいただけたと思います。
しかし長い支払い期間中には、養育費を支払う意思はあっても経済的に苦しい時期もあるかもしれません。
そこで次回は、「養育費の減額」についてお伝えしようと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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